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Project Story 1 | 水処理の常識を大きく変えた新発想の技術。微生物の能力を最大限引き出す世界初の技術を実用化したプロジェクトメンバーの想いとは。

世界一の半導体工場に導入された「硝化脱窒グラニュール技術を用いた高速窒素処理システム」。
水処理の常識を大きく変えた気鋭の技術は、どのようにして実現されていったのか。
オルガノの6年にもわたる開発期間を振り返り、プロジェクトを牽引した3名のキーパーソンの証言を交えながら真相に迫る。

大手半導体メーカー向け大型排水処理プラント。ニーズに応えるための新技術。

スマートフォンやタブレットなどのデバイスに組み込まれる半導体やFPD(液晶、有機ELパネル等)は世界的に需要が高まっているが、このような電子部品の製造には大量の水が欠かせない。例えば、洗浄プロセスやエッチング液の希釈水などに使用される超純水は、半導体工場では500〜700m³/hr、大型液晶工場では3,000m³/hr以上にのぼる。各製造過程で発生する排水の放流、もしくは工場内での再利用を目的として、対象物質の種類・濃度・排水基準値に合わせた多様な排水処理システムが工場内で稼動している。

オルガノは半導体、液晶、電子部品を製造する工場向けの超純水製造および排水処理の技術を有し、多くの水処理プラント納入実績を誇る。あるとき、主要顧客の大手半導体メーカーから新規製造ライン建設計画の情報を得る。大型新規案件の受注に向け、プロジェクトは動き始めた。

大型新規案件のプロジェクトは本社の営業が主体となり、客先に近い支店の営業部隊の協力も得ながら進行していく。全社内のリソースを駆使し多方面に情報を収集する。客先キーマンとの接触を図り、客先予算・工事期間・立地条件などの情報を入手、精査をした上で、案件受注のキーとなる客先ニーズが何かを見極めていく。電子産業向け水処理プラントの営業部隊を統括するエレクトロニクスビジネスユニット長の原は、当時をこう振り返る。「半導体技術は日進月歩で進歩しており、新しい生産ラインや工場の建設には莫大なコストが掛かります。お客様は水処理プラントについても大幅なコスト削減を求めていたうえ、同じ工場敷地内で未使用となっていた既設プラントを有効活用した上で、現在より排水処理速度を高め、省スペース化を実現することを期待されていました。」
低コスト化、既存設備活用(以下、既設活用)、高速処理…客先ニーズは見えてきたが、これは過去にオルガノでも例の無い難易度の高い要求だった。営業の原は、客先ニーズを満たすためには、開発センターの江口が進めていた新技術の適用しかないと直感し、本件を江口に持ちかける。

未来の顧客ニーズとシーズを一致させて、新しい水処理技術を開発する。

遡ること4年前、開発責任者の江口は新たな生物処理技術の開発を模索していた。
予てより、半導体の製造工程で使用・排出されるアンモニアや硝酸を含んだ大量の排水をスピーディーに処理することが課題となっていた。これらの窒素化合物は環境への影響が大きいことから排水規制が設定され、濃度や種類によって多様な方法で処理されるが、なかでも微生物の働きを利用した生物処理法は低コストであることから広く普及していた。代表的な窒素処理方法のひとつである活性汚泥法では、硝化(好気)→脱窒(嫌気)→酸化(好気)を行う処理槽を個別に設け、活性汚泥を循環させることで排水を処理していく。この処理方法は運用コストが安価というメリットに対し、処理スピードが遅く、大量の排水を処理するためには巨大プラントの建造が必要となるデメリットがあった。

窒素処理の高速化(プラントの小型化)と低コストでの処理は両立できないことが業界の常識となっていたが、こうした現状を打破したいと考えていた江口は、ある技術に着目する。微生物を高濃度化する好気グラニュール技術だ。折しも、水処理分野の発展を推進する日本水環境学会で、好気グラニュール技術を用いた窒素処理に関する新しい基礎技術について発表があり、江口はすぐに研究を指揮した教授にコンタクトを取り、社内に研究開発チームを立ち上げた。硝化グラニュール技術の応用から、独自のアプローチで硝化脱窒グラニュール技術の開発を進めた。
「水処理プラントの開発では、いきなり水処理プラントを建設するのではなく、まずは小型試験機からスタートします。その後、パイロットスケールと呼ぶ連続処理可能な大型の実験装置を開発して、より本番に近い状態でテストを行います。試行錯誤を繰り返し、硝化脱窒グラニュールの形成に成功したときは飛び上がるほどうれしかったですね。」と、江口が当時を振り返りながら興奮気味に語った。

研究開発チームを立ち上げた4年後、営業の原から話を聞いた江口は「ついに実用化に向けて具体的に動き出すときが来た。」と意気込んだ。研究開発に成功した硝化脱窒グラニュール技術は4年先の客先ニーズを捉え、同技術を用いた高速窒素処理システムは実用段階に到達していた。

好気グラニュールとは、高密度に微生物が凝集して自己造粒した汚泥のことを指し、通常の微生物汚泥と比較して固液分離性に優れているという特徴を有する。

前例のないミッションに一致団結し挑んだ経験は、オルガノの財産に。

水処理プラント納入という大型プロジェクトで、水処理システムの立案、客先提案を担うのが計画設計の役割だが、本プロジェクトの計画を取り纏めたのが成田だ。コスト削減と既存設備の活用という客先ニーズに対し、成田も高速窒素処理システムの適用が不可欠と考えたが、新技術適用と既設活用を最大規模の水処理プラント案件で実現することは、過去に例のない難易度の高いものになると感じていた。

成田は新技術適用と既設活用の二つの軸で、水処理システム上で懸念されるリスクの抽出とリスクヘッジ策を検討していく。オルガノへの発注が決まっていない計画段階においては、客先からの情報開示も限られ、情報の量、質ともに限界があるが、その中で新技術の適用可否、水処理システムの実現性を見極めなければならない。この見極めの力量は、エンジニアリングメーカーとしての経験値、ノウハウが試される場面であり、基本計画に大きく影響を与える。成田は、営業情報、客先提示条件、入念な現場調査や関係者へのヒアリング、社内ノウハウとして蓄積されたデータ、何より研究開発チームによる新技術の豊富な実験データをふまえて、本件における既設活用と「硝化脱窒グラニュール技術を用いた高速窒素処理システム」を両立した水処理システムを構築する。

プラントへの新技術採用には、必ず客先の了解を得なければならないが、このような場面で、客先と営業の信頼関係が活かされる。原は江口の協力を得て、新技術のプレゼンテーションを客先・関係者に向けて行い、その進歩性とコスト削減のPRを行った。客先上層部への働きかけも行い、新技術への理解を勝ち得る。
競合他社も新技術を軸とした提案を行っていたが、最終的にオルガノから客先へ提案された内容は、コスト削減、既設活用のほか、短納期化も実現し、競合他社を圧倒する形で、オルガノへの発注が決まった。

受注が決まった後、成田の計画をベースとして詳細設計がスタートする。詳細設計ではプラントを構成する機器・部材の仕様・寸法・配置等を決定していく。パイロットスケールから実機へのスケールアップと、既設活用の両立を前提としたハードに関する設計検討がここで行われる。グラニュール(細粒)を破壊しないポンプの選定や、既存の土木水槽の仕切り壁の撤去・追加といった土木レベルでの改造検討など、最終的には計画段階と合わせて設計検討項目数は100を超えた。
現場での建設工事開始後も、既存処理槽の再利用に伴う残留汚泥の処理や臭気対策、試運転では限られた期間で新技術の運用を軌道にのせる必要があり、微生物に栄養源を与えるタイミングや量を制御するプログラムを短期間で確立するなど、各部署が一つひとつの課題を着実に乗り越えていった。
「このプロジェクトは、研究開発、営業、計画、設計、制御、工事、試運転、運転管理といった、オルガノの総力を結集した一大プロジェクトでした。各部署が同じ方向を向いて、この前例のないミッションに挑戦しなければ、成功しなかったと思います。」と成田は振り返る。
江口も「当時、社内には、新技術を実用化して世の中に送り出し、社会に貢献するんだという気迫が満ちていました。熱い信念を持った同志たちが一致団結した経験は、オルガノにとって大きな財産になったと思います。」と語り、新技術の実用化を成し遂げた達成感を改めて噛み締めていた。

世界初の排水処理技術が、新時代を切り拓く。

このようにプロジェクトメンバーの情熱と努力が実を結び、実用化された新技術が水処理コストの削減、さらに水処理技術の向上に貢献したことは言うまでもない。既存の設備で処理できる窒素排水の量が従来の3倍以上に向上し、処理の高速化とコスト削減の両立を可能にした。新技術に関わる特許取得は6件、海外でも特許を得るに至った。この成果がもたらすメリットは、大手半導体メーカーだけのものではない。窒素排水の処理を高速かつ低コストで安定的に行えるため、今後もさまざまな分野での活用が期待されている。この「硝化脱窒グラニュール法を用いた高速窒素処理システム」は、水環境技術に関して顕著な功績をなした個人または団体に贈られる日本水環境学会技術賞(2016年)を受賞。すでに半導体メーカーを中心に、多くの企業から問い合わせがあるという。また、オルガノが実用化に成功した硝化脱窒グラニュール技術は、窒素処理だけではなく有機物の処理にも応用が期待されている。有機物処理は世界各地の産業排水処理や下水処理場などにニーズが拡がる。オルガノは超純水に代表される高度な技術力で評価されているが、今後は超純水と並び、硝化脱窒グラニュール技術を含む排水処理もまた、オルガノの強みとなるであろう。江口、原、成田の3名をはじめとして、全社を挙げて成功させたプロジェクトは、世界に広がるオルガノのマーケットをさらに拡大していくビジネスチャンスを生んだと言えるだろう。

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