環境への取り組み 気候変動への対応
TCFD提言に基づく情報開示
気候変動問題への対応
気候変動問題は世界共通で取り組むべき重大な課題であると同時に、当社グループの事業活動に影響を及ぼす重要な課題のひとつです。
当社グループは、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース/Task Force on Climate-Related Financial Disclosures)が提唱する気候関連開示フレームワークに沿って、気候変動が当社グループの事業に与えるリスク・機会について、気候変動が激甚化した場合と脱炭素社会が実現した場合のふたつのシナリオに基づいて分析を行いました。この分析を通じて明らかになったリスク・機会を、今後、経営戦略やリスクマネジメントに反映させ、その進捗を適切に開示し、世界の共通目標であるカーボンニュートラルの実現に向けて真摯に取り組むと共に、事業の更なる成長を目指します。
①ガバナンス
●サステナビリティ委員会
当社は、当社グループのサステナビリティ経営の執行機関として、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置しています。同委員会では、気候関連の取組方針を含むサステナビリティに関わる基本方針、計画、目標の策定と、施策の実施状況や進捗のモニタリングを行っています。
2023年度、同委員会は5回開催され、達成すべきKPIを含むマテリアリティや排出削減目標値等の審議を行い、サステナビリティ施策の進捗やKPIの実績について確認しました。
同委員会で審議された重要な基本方針、計画、目標等は取締役会に上程され、審議を経て最終的に決定されます。また、サステナビリティ関連の重要な施策やKPIの進捗状況は、適宜、取締役会に報告しています。2023年度、取締役会への報告は1回行われました。
●サステナビリティ実行会議
当社は、サステナビリティ委員会の下部組織として、基本方針、計画に基づいて具体的な施策を推進するために「サステナビリティ実行会議」を設置しています。同会議では、時機に応じたサステナビリティ課題毎にワーキンググループを立ち上げ、関係する部門・グループ会社からグループ員を選任し、課題解決に向けた取り組みを進めています。現在、サステナビリティ実行会議には5つのワーキンググループがあり、気候変動問題への対応を含むそれぞれの取り組み(GHG排出量の算定・削減施策、SDGs達成に向けた施策、CSR調達の推進、TCFD提言への対応)を行っています。同会議が実施する施策の進捗状況は、適宜、サステナビリティ委員会に報告されます。
●リスクマネジメント委員会
サステナビリティ関連のリスクマネジメントは、サステナビリティを含む当社グループ全体のリスクマネジメントに包含されます。リスクマネジメント委員会が中核(ハブ)となり、当社グループ内から洗い出されたリスクの分析・評価を実施し、当社グループの主要なリスクを特定し、対応主管部門を決定しています。なお、当該主管部門は、特定された主要リスクのリスク対応を主導します。
●サステナビリティ関連のガバナンス体制

②戦略
当社グループでは、1.5℃シナリオ(WEO2023 NZE:国際エネルギー機関(IEA)等を参照)と、4℃シナリオ(RCP8.5:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等を参照)に基づいてシナリオ分析を行いました。両シナリオについてリスク・機会を抽出し、各項目に対して財務影響度の評価を行い、重要かつ現時点で具体的な影響が予測可能なリスク・機会について財務影響の定量化試算を実施しました。リスクについては当社の対象年度利益に対する影響度を評価する一方で、機会に関する当社業績への具体的な影響度は今後の事業計画の検討を通じて検討する方針です。2024年度の分析は対象範囲を前年度より拡大し、国内外のグループ会社(一部のグループ会社を除く)も含めております。
1.5℃シナリオにおけるリスクと機会
1.5℃ リスク |
カテゴリ | シナリオによるトレンド | 主な項目 | 発現時期 | 対応策 |
---|---|---|---|---|---|
政策 | 炭素税・GHG排出量規制の導入 | 自社の炭素税負担、及びサプライヤー等の炭素税負担による調達コストや自社の製造設備費用などが増加 | 中・長 | ・再エネ導入などによる自社の直接GHG排出量の削減 | |
市場 動向 |
EV推進や都市のスマート化による市場拡大 | EV関連製品、半導体関連ニーズの高まりにより機能材の需要が増加し、原材料価格が上昇 | 中・長 | ・経済合理性に基づく適切な価格設定 | |
電源構成の変化(再エネ・新燃料導入) | 使用電力の再エネ・新電力への転換に伴うコスト増加 | 中 | ・省エネの推進、生産プロセスの継続的な効率化 | ||
エネルギー効率の低い製品・サービスの売上減少 | 中 | ・省エネルギー製品・サービスの開発強化 | |||
技術 | 廃棄物の再利用・有効活用に対する社会的要請が増大 | 廃棄物処理コストの増加 | 中・長 | ・廃棄物の低減 | |
評判 | 環境低負荷、防災・減災関連、省エネ・再エネ関連の製品、サービスに対する要求の増大 | GHG排出削減で成果を上げられないことによる評判の影響により、製品・サービス使用機会の減少、売上減 | 中・長 | ・GHG排出量削減の強化 ・当社製品・サービスに関するGHG排出量情報開示、クライアントアンケートなどへの対応強化 |
1.5℃ 機会 |
カテゴリ | シナリオのトレンド | 主な項目 | 発現時期 | 対応策 |
---|---|---|---|---|---|
政策 | 炭素税・GHG排出量規制の導入 | 低炭素技術・製品・サービスの 需要拡大による売上増加 |
中・長 | ・顧客のGHG/水使用量/廃棄物の削減に貢献する製品・サービスの拡大 | |
CO2の放出削減並びに循環利用に向けたCCUS活用推進 | CCUSに関する技術のニーズが高まり、 関連製品・サービスの売上増 |
長 | |||
水使用規制が強化 | 排水回収や節水に貢献する 装置や薬品の売上増加 |
中・長 | |||
市場動向 | EV推進や都市のスマート化による市場拡大 | EV関連ニーズの高まりによる 関連製品・サービスの売上増加 |
中・長 | ・次世代の分離精製技術の開発強化、拡大 | |
電源構成の変化(再エネ・新燃料導入) | 再エネ・新燃料の電源構成変化に伴い、当社の関連製品・サービスの売上増加 | 中 | ・顧客のGHG/水使用量/廃棄物の削減に貢献する製品・サービスの拡大 | ||
技術 | 廃棄物の再利用・有効活用に対する社会的要請が増大 | 資源リサイクル技術の拡大により売上増 | 中・長 | ・顧客のGHG/水使用量/廃棄物の削減に貢献する製品・サービスの拡大 | |
評判 | 環境低負荷、防災・減災関連、省エネ・再エネ関連の製品、 サービスに対する要求の増大 |
脱炭素対応を進め、取引先に対する関連情報開示を積極的に推進することで、新規・既存顧客からの引き合いが増加 | 中・長 |
・顧客のGHG/水使用量/廃棄物の削減に貢献する製品・サービスの拡大 ・GHG排出量削減の強化 ・当社製品・サービスに関するGHG排出量情報開示、クライアントアンケートなどへの対応強化 |
発現時期:中期(2030年)、長期(2050年)
4℃シナリオにおけるリスクと機会
4℃ リスク |
カテゴリ | シナリオによるトレンド | 主な項目 | 発現時期 | 対応策 |
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物理 (急性) |
自然災害の激甚化 | 異常気象に伴うサプライチェーン分断により、供給価格の高騰、あるいは原材料の入手困難による生産遅延・中止リスク | 中・長 | ・サプライチェーンの強靭化・調達先の複層化 | |
東南アジア拠点の洪水被害による保険対象外の仕掛品・在庫品の廃棄リスク | 中・長 | ・当社拠点の洪水リスク等の定期的な調査に基づくBCPの整備 ・水害を含む保険加入の継続的な最適化 |
|||
東南アジア拠点における洪水被害による機械設備の再投資 | 中・長 | ||||
物理 (慢性) |
慢性的な気候変化 (海水面上昇) |
東南アジア拠点における、浸水による保険対象外の仕掛品・在庫品の廃棄リスク及び機械設備の棄損リスク | 長 | ||
東南アジア拠点における浸水対策投資またはリスク程度が上昇した場合の工場移設に係る再投資*注 | 長 | ||||
慢性的な気候変化 (平均気温上昇) |
気温の上昇により、屋外作業人員の適度な休息の必要性や、体調不良のリスクが高まり、生産性の低下により人件費が増加 | 中・長 | ・現場施工期間短縮に向けたプロセス開発 ・労働時間帯の柔軟化 |
||
空調の使用強度上昇、使用期間の長期化によるエネルギーコストの増加 | 中・長 | ・省エネ対応空調設備の導入 |
注:投資CF影響であるため、税引前利益に対する財務影響度評価からは除外
4℃ 機会 |
カテゴリ | シナリオのトレンド | 主な項目 | 発現時期 | 対応策 |
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物理 (急性) |
自然災害の激甚化 | 主要原材料の仕入れ元の複層化や海外拠点における現地調達化が進むことによる、供給の安定化やコストダウン | 中・長 | ・調達先の複層化や現地調達の強化 | |
物理 (慢性) |
慢性的な気候変化 (平均気温上昇) |
気温上昇に伴い、冷却技術や殺菌・制菌技術の需要が高まり、殺菌剤や冷却水関連製品の売上増加 | 中・長 | ・冷却水用薬品の開発強化、拡販 |
発現時期:中期(2030年)、長期(2050年)
1.5℃シナリオによる2030年度の主要な財務影響
- 炭素税・GHG排出量規制の導入に伴う自社の炭素税負担、及びサプライヤー等の炭素税負担による調達コストや自社の製造設備費用の発生により、2030年度の税引前利益ベースで5億円強のコスト増加影響を見込んでいます。更に、電源構成の変化(再エネ・新燃料)による電気料金上昇や廃棄物処理コストの増加により、2030年度の税引前利益ベースで3億円弱のコスト増加影響を予想しています。
- 1.5℃シナリオの世界では、EV推進や社会のスマート化に伴う半導体需要の増大が期待されることから、水回収プラントや薬品などの製品・サービスによる事業成長の機会は大きいと予想しています。
4℃シナリオによる2050年度の主要な財務影響
- 4℃シナリオの世界では、当社のエンジニアリング業務における屋外作業人員の生産性が低下することにより、2050年度にはグループで8億円弱の外注人件費増加が見込まれます。
- 当社の東南アジア拠点では、以前よりBCPの観点から機械設備・棚卸資産等に対しては水害を含む損害保険を手当てする等の対応を進めております。このため、現時点で認識している自然災害の激甚化等に伴う財務影響は限定的であると認識しております。
③リスク管理
サステナビリティ委員会の監督の下、サステナビリティ実行会議が立ち上げた気候関連シナリオ分析ワーキンググループでは、国内外のグループ会社を含めて対象範囲を広げ、シナリオ分析を行いました。気候変動による将来の事業に対するリスクと機会を抽出し、財務影響の定量化分析を行いました。ワーキンググループで検討したリスクと機会の財務影響について、サステナビリティ委員会で重要度と顕在化可能性、影響を受ける時間軸等の観点から分析、評価を行い、主要なリスクを定量化しました。
当社グループにおけるサステナビリティを含むリスクマネジメントは、リスクマネジメント委員会が中核(ハブ)となり、サステナビリティ委員会とも連携をとり推進しております。短中期の主要リスクはリスクマネジメント委員会が主導的に管理し、長期(~2050年)の主要リスクはサステナビリティ委員会が引き続き主導的に管理していきます。
特定された気候関連の中長期の主要リスクへの対応については、長期経営計画推進会議で対応の方向性を決定したうえで、中期経営計画及び単年度の利益計画に反映し、計画は経営会議で審議のうえ、取締役会で決定します。気候関連の中長期のリスク対応の実施状況・進捗については、サステナビリティ実行会議からサステナビリティ委員会に報告がなされ、適宜取締役会に報告がなされます。
なお、これらのリスク・機会への対応として、多額の費用の支出、資産の取得・処分を実施する場合は、内容と金額の規模に応じて経営会議及び取締役会への付議の対象としています。
④指標及び目標
当社グループは、気候変動問題を世界共通で取り組むべき重大な課題と認識しており、持続可能な社会の実現に向けて、以下の通りGHG排出量の削減目標を設定し、削減に向けた取り組みを行っています。2024年度のScope1・2は、2021年度比で38%削減となりました。削減の主な要因は再生可能エネルギー由来電力の段階的な導入です。2024年度のScope3は、2021年度比で26%増加しました。
今後も継続して排出量削減に向けた取組を順次実施していきます。また、当社グループの各拠点での再生可能エネルギー導入を進める削減の取り組みを推進するとともに、達成状況の評価を行ってまいります。
項目 | GHG排出量削減目標 | GHG排出量削減目標 | 実績 (注) | 実績 (注) | 実績 (注) |
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項目 | 2030年度 | 2050年度 | 2021年度(基準年) | 2023年度 | 2024年度 |
Scope1・2 |
42%削減 (基準年比) |
カーボン ニュートラル |
10,324t-CO2 - |
6,692t-CO2 35%減(基準年比) |
6,413t-CO2 38%減(基準年比) |
Scope3 |
脱炭素社会の実現に向けて ステークホルダーと協調して削減に 取り組む |
1,017,750t-CO2 - |
1,517,575t-CO2 49%増(基準年比) |
1,280,847t-CO2 26%増(基準年比) |
(注) 実績値の集計範囲については、従来一部のグループ会社を除いておりましたが、当連結会計年度より国内外全てのグループ会社を対象としております。この変更に伴い、基準年の総排出量の数値についても国内外全てのグループ会社を含めた数値に変更しております。
カテゴリ | 2021年度実績 (t-CO2) |
2023年度実績 (t-CO2) |
2024年度実績 (t-CO2) |
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カテゴリ1:購入した製品・サービス | 363,649 | 397,036 | 347,107 |
カテゴリ2:資本財 | 8,846 | 5,162 | 7,225 |
カテゴリ3:Scope1・2に含まれない燃料およびエネルギー活動 | 2,772 | 1,455 | 1,290 |
カテゴリ4:輸送・配送(上流) | 11,894 | 12,651 | 10,787 |
カテゴリ5:事業から出る廃棄物 | 3,040 | 3,523 | 4,006 |
カテゴリ6:出張 | 317 | 327 | 348 |
カテゴリ7:雇用者の通勤 | 608 | 629 | 669 |
カテゴリ8:リース資産(上流) | 53 | 63 | 57 |
カテゴリ9:輸送・配送(下流) | 558 | 500 | 421 |
カテゴリ10:販売した製品の加工 | 0 | 0 | 0 |
カテゴリ11:販売した製品の使用 | 575,039 | 1,039,526 | 831,587 |
カテゴリ12:販売した製品の廃棄 | 5,835 | 5,456 | 6,443 |
カテゴリ13:リース資産(下流) | 44,632 | 49,902 | 69,359 |
カテゴリ14:フランチャイズ | 507 | 1,346 | 1,548 |
カテゴリ15:投資 | 0 | 0 | 0 |