プロジェクト ストーリー

スーパーカミオカンデ
宇宙の解明に挑む
研究者たちの深奥なる情熱に、
「超純⽔のスクリーン」で応えよ。
プロジェクト始動

5万トンのタンクを超純⽔で満たす。 ⽔のプロフェッショナルとして挑む、 宇宙プロジェクトへの参画。5万トンのタンクを超純⽔で満たす。⽔のプロフェッショナルとして挑む、宇宙プロジェクトへの参画。5万トンのタンクを超純⽔で満たす。 ⽔のプロフェッショナルとして挑む、 宇宙プロジェクトへの参画。

宇宙誕⽣の瞬間、何が起こっているのか?この問いに、⼼ときめかない者はいないであろう。東京⼤学宇宙線研究所は、世界最⼤の⽔チェレンコフ宇宙素粒⼦観測装置「スーパーカミオカンデ」によって、深遠な宇宙の成り⽴ちや物質の起源の謎を解き明かそうとしていた。

世紀の観測装置の構築にあたり、必要不可⽋な要素が、究極の純度を持つ⽔だった。直径約40m、⾼さ約40mの巨⼤なタンクを満たす5万トンの⽔は、宇宙から降り注ぐ微少なニュートリノのわずかな光であるチェレンコフ光を捉えるために、観測の邪魔になるあらゆるノイズを遮断する「超純⽔のスクリーン」の役割を果たす。空気中の塵、微⽣物、そして⾃然界に存在する微量の放射性物質すら含まない、究極の透き通った⽔のスクリーンがあって、はじめて観測が可能となるのだ。

現代物理学の完成形とされるスタンダードモデルの壁を打ち破り、その先にある真の宇宙の法則を⾒つけ出そうとする研究者たちの挑戦と、究極のスクリーンづくりによって研究をサポートし、プロジェクトを推進させるオルガノとの共創が始まった。

*光速を超えた時に発⽣する衝撃波を⾒出したロシアの物理学者パヴェル‧チェレンコフに由来。

プロジェクトメンバー
  • 望⽉ 寛盛の顔写真

    望⽉ 寛盛

    1993年から本プロジェクトに参画。設計時および建設時のプラント系営業担当。現在、執⾏役員、機能商品本部 機能商品事業部⻑

    ※本プロジェクトにおいては、営業、技術、建設などオルガノから約8名のメンバーが参画。

フォーカス 1​

不可能を可能にする、
研究者との⼆⼈三脚。

「絶対に成功させましょう」、その思いを共有して。

スーパーカミオカンデは、鉱⼭の地下1,000mの場所に位置し、地下から宇宙を観測するという壮⼤なアプローチだ。岩盤は宇宙から降り注ぐ不要な粒⼦(宇宙線)を遮り、全⾼41.4m、直径39.3m、5万トンの超純⽔で満たしたステンレス製タンクはニュートリノを捉える。

5万トンの⽔に超純⽔が求められる理由は、⽔中にわずかでも不純物があると、ニュートリノから発⽣した微弱なチェレンコフ光が遮られてしまうからだ。オルガノに課せられたミッションは、極限まで磨き上げられた超純⽔の開発に加え、地下深部の設備設計、配管ルートの最適化、緻密なシステム管理など、⽔に関するトータルソリューションだ。この責任重⼤な任務に抜擢されたのが、新⼊社員の望⽉だった。

「前プロジェクトの“カミオカンデ”においてオルガノは超純⽔を供給した実績があり、観測の精度をさらに⾼めるために、“スーパーカミオカンデ”がスタートしました。それが私の⼊社と同時期で、いきなり営業の⼤役を任されたわけです。東京⼤学の研究室を訪ねると、書類や資料がうず⾼く積まれたその奥に、若き⽇の梶⽥先⽣がいらっしゃって、書類の⼭に埋もれながらディスカッションを重ねたのを鮮明に覚えています」と望⽉が当時を振り返る。

梶⽥先⽣とは、後にスーパーカミオカンデによってニュートリノ振動を発⾒し、ノーベル物理学賞を受賞された東京⼤学の梶⽥隆章教授のことである。望⽉が続ける。
「梶⽥先⽣はとても温厚でお優しい⽅なのですが、宇宙の話をする時だけは⽌まらないのです。難しい話をわかりやすく繰り返ししてくださり、宇宙の謎を解明する⼒に⾃分もなりたいと意を強くしました。お互いに『やりましょう、絶対に成功させましょう』と呼吸を合わせ、それがプロジェクトの加速につながったと思います」。

⽔のスクリーンに求められた、唯⼀無⼆の超純⽔とは。

5万トンもの⽔からあらゆる不純物を取り除き、完璧なスクリーンを作り出す。⼀般的な超純⽔装置が数トンから数百トン規模であることを考えると、⽔のスクリーンで追求するチャレンジが、いかに桁違いなものであるかがわかるであろう。

多くの分野へ超純⽔の供給実績を持つオルガノにとっても⼤きな挑戦となる、規模も質も桁違いの超純⽔とはどのようなものなのだろうか。望⽉が説明する。
「スーパーカミオカンデが要求する⽔質は、当時としては唯⼀無⼆の要求値でした。中でも、最⼤の難関が放射性物質の除去でした。鉱⼭の中は、空気中にもトリウムをはじめ、さまざまな放射性物質が存在します。とりわけラドンは最⼤の敵で、岩盤の割れ⽬からトンネル内や⽔槽内へじわじわと染み出し、⽔中で崩壊して放射線を出すと、スクリーンに不要な光のノイズを⽣み出し、ニュートリノの微光を覆い隠してしまうのです。⼀⽅で、超純⽔を作るシステムの中で、脱気といって⽔の中に溶け込んでいる不要な成分を空気で取り除く⼯程がありますが、鉱⼭内の空気を取り込んでしまうと空気中の不純物が再び溶け込んでしまうという⽭盾を抱えることになります。ですから、⽔だけでなく空気までケアしないと要求に応えることができません。そこは我々の通常のビジネスで使う技術を超えた、まさにスーパーテクノロジーが求められたところです」

最⼤の難関である放射性物質をはじめ、イオン成分、有機物、微粒⼦など、あらゆる不純物を許容限界以下に抑え込むことで、「スーパーカミオカンデ仕様の超純⽔スクリーン」は実現する。本当にできるのだろうか?前例なき取り組みに時として⼼が挫けそうになる度に、望⽉は「やりましょう、絶対に成功させましょう」という梶⽥先⽣の⾔葉を胸に刻んで前へ進んだ。

フォーカス2

究極の超純⽔を追究して、
難題に挑む。挑み続ける。

ラボと現地を⾏き来して実験と検証を繰り返す。

超純⽔のスクリーンを構築するために、ラドンをはじめとする空気中の放射性物質までも除去する技術は、オルガノにとって全く新しい挑戦だった。どのようにして検証しながらシステムを組んでいけば良いのか、頭を悩ませた。

「ターゲットは明快で、観測の障害となるラドンを100分の1以下にすることでした。そこで、当社のラボに依頼して、ターゲットとなる⽔質に向けた検証と実験を⾏いました。ラボで成果が上がると、梶⽥先⽣と当社の技術者を伴って岐⾩県神岡町まで赴き、現地検証を⾏いました。納得のいく結果が出るまで、ラボと現地との往復を繰り返し、超純⽔装置に⼯夫をこらしていったのです」と望⽉は⾔う。

梶⽥先⽣をはじめとする研究者と、オルガノのスタッフが⼀枚岩となるこだわりがあったからこそ、⽔のスクリーンは実現した。それは宇宙の窓の曇りを取り除き、観測精度を⼤きく向上させる、スーパーカミオカンデの成否を分かつ取り組みだった。

地上のノウハウが通⽤しない鉱⼭内の⽔槽建設。

スーパーカミオカンデにとって、もうひとつの難題が5万トン規模の⽔槽の建設だった。専⾨の⼯事施⼯業者によって掘り抜かれた巨⼤な地下空洞に向かう約2kmの横⽳式トンネルの中を、⽔槽建設のための資材を運び込んだ。

「映画『インディ‧ジョーンズ』さながらトロッコに乗って鉱⼭の中に⼊り、発破を仕掛けて鉱⼭をくり抜くのですが、その圧倒的な光景を⽬の前にして脚がすくむ思いでした」と望⽉は⾔う。そして、「さほど⼤きくないトンネルの中を、巨⼤な重機や⽔槽の材料を運び込むのは、地上で⾏うようにはいきません。通常使える重機もトンネルの中に⼊りませんし、次から次へと課題が出てきました。それらの課題を⼀つひとつ解決するために、⾏ったり来たりして随時担当者をつないでいくことは⼤変でしたが、マネジメントの醍醐味を学んだ現場でもありました」と困難を極めた⽇々がよみがえる。

スーパーカミオカンデ建設の総⼯期4年3ヵ⽉、その内、⽔槽設置に1年、超純⽔の注⼊から満⽔にするまで数ヵ⽉。ついに、⼈類が宇宙の謎を解き明かすニュートリノを捉えるための新たな“⽬”を⼿に⼊れることになった。

宇宙劇場「スーパーカミオカンデ」、封切り。

1998年、スーパーカミオカンデは、⾶⾏するニュートリノが移動しながら別種類のニュートリノへと変⾝する「ニュートリノ振動」の現象を世界で初めて観測した。この発⾒は、ニュートリノが質量を持つことを証明した歴史的な出来事であり、当時の素粒⼦物理学の常識を超え、宇宙の進化や物質の根源に関する学究を⼤きく前進させた。そして2015年、このニュートリノ振動の発⾒により、東京⼤学の梶⽥先⽣にノーベル物理学賞が授与されることとなった。

さらに、スーパーカミオカンデは、太陽から⾶来する太陽ニュートリノや、超新星爆発からのニュートリノ観測にも貢献し、宇宙のさまざまな現象を解き明かすための重要なデータを提供し続けている。これらの歴史的な宇宙の解明は、研究者たちのあくなき探究⼼と、ニュートリノの光をセンサーまで届けるための超純⽔のスクリーン、微かな光の粒をキャッチする13,000本の光電⼦増倍管がなければ実現できないことだった。

「梶⽥先⽣をはじめ、研究者の⽅々の要求に応える、世の中にない⽔質を作ることができた達成感は何物にも代えがたく、⼤きな評価もいただきました。梶⽥先⽣から⾮常に多くのことを学びましたし、同じ思いで臨めば成し遂げられないことはないと実感しました。このプロジェクトに参加させていただいた経験は、今でも私の⼤きな財産です」と、望⽉は⾔葉を噛み締める。

フォーカス 3

若い⼒に、
夢のプロジェクト経験を。

世代を超えて、部⾨を超えて、応えていく。

2020年、研究者たちはさらなる⾼度な観測を⽬指し、5万トンの超純⽔タンクに微量の「ガドリニウム」を添加し、新⽣スーパーカミオカンデとしての観測をスタートさせた。これは特に超新星爆発から⾶来する反ニュートリノの検出効率を⼤幅に向上させるものだ。

この計画は、オルガノにとっても新たな挑戦となった。ガドリニウムは極めて⾼い純度で均⼀に⽔中に溶解させる必要があり、⼀⽅で添加によって新たな不純物が発⽣しないように超純⽔の品質を維持しなければならない。そこでオルガノは、東京⼤学宇宙線研究所と緊密に連携して、新たな⽔処理技術の開発に挑んだ。すなわち、⽔中の微量な不純物を除去しつつ、ガドリニウム⾃体は保持するという、特殊な機能を持つ「イオン交換樹脂」の開発だった。

「ガドリニウムと他の不純物を賢く分離する技術が必要とされました。そこで、ガドリニウムの安定的な溶解と、それに伴う⽔質変化への対応、そして⻑期的な純度維持システムを構築するために、我々が取ったのが技術者の連携でした。オルガノは当時からいくつかの事業部⾨に分かれていましたが、半導体関係の技術開発を担う技術者を、部⾨を超えて連携させることで、より⾼度なご要望に応える技術を提供することができました」と望⽉は説明する。

そして、「スーパーカミオカンデは、新⼊社員の私にとって、夢のプロジェクトでした。研究者の⽅々と同じ⽬的に向かって挑戦する。我々の持てる技術と知⾒のすべてを注ぎ込み、新たな知恵でプロジェクトの推進に貢献する。その喜びは、ビジネスを超えた達成感があります。
こうしたアカデミックな夢のあるプロジェクトを、若い社員もぜひ経験してほしい。その経験は必ずや⾎となり⾁となって⾃⾝を成⻑させてくれます。そして、オルガノもまた、⽔を通して夢を提供できる企業であり続けたいです」と望⽉の⾔葉に熱がこもる。

5万トンの超純⽔のスクリーンは、ニュートリノが発する微かな光とともに、夢の⼒を信じ、⽔の⼒で応えるオルガノの揺るぎない使命感を映し出している。

やがて、この時のガドリニウムに関するオルガノの協⼒が、スーパーカミオカンデの約10倍の体積を持つ次世代ニュートリノ観測装置「ハイパーカミオカンデ」プロジェクトへとつながっていく。研究者たちの情熱によって加速度的に進化する観測装置を通して、この先も宇宙の謎は次々とヴェールを脱いでいくことだろう。それはまさに宇宙形成のドラマの解明であり、オルガノは宇宙劇場を上映するパートナーとしてともに挑み、⽀えていく。

プロジェクト概要

■施設名

スーパーカミオカンデ

■期間

1991年〜1996年

■納入設備

5万トンの超純⽔製造システム、
ラドン除去装置(脱気システム)、
ガドリニウム導⼊‧回収システム (2020年)