プロジェクト ストーリー

電子材料精製用イオン交換樹脂
半導体製造の敵、
メタル不純物の残留を
1兆分の1レベルで排除せよ。
プロジェクト始動

暮らしも社会も産業も、現代は半導体がなければすべてが止まってしまうと言っても過言ではない。そして、半導体を作るための電子材料の精製に欠かせない技術が「イオン交換樹脂」であり、オルガノはこの技術における長い歴史を積み重ねている。

本来、イオン交換樹脂は純水・超純水を精製するために、水から不純物を取り除くことを主用途とするが、非水系の有機溶媒などの電子材料から不純物を除去できることに着目。20年以上前の先見である。もし電子材料に不純物が残ったままであれば、誤作動やフリーズなど致命的なトラブルを引き起こし、それ以前に部品を作ることさえできないだろう。

年々、半導体製品は微細化が進み、電子材料に求められる純度は比例して高まっている。かつてオリンピックプールに耳かき一杯分と言われた不純物の許容範囲は、今や巨大な湖に一杯分ですら許されないレベルに達する。この神業レベルの研究開発と事業化は、いかにして実現したのか。4人のキーパーソンの言葉を通して、挑戦の全貌を浮き彫りにする。

*純度を示す単位で、parts per trillion(1兆分の1)。現在はさらにppq:parts per quadrillion(1000兆分の1)のレンジに到達しつつある。

プロジェクトメンバー
  • 伊藤 美和の顔写真

    伊藤 美和

    約20年前の電子材料精製用イオン交換樹脂開発のスタート時から参画。開発から量産化、顧客提案、技術対応を実施。現在、機能商品事業部 機能材料統括部 部長

  • 中村 彰の顔写真

    中村 彰

    開発担当として本プロジェクトに参画。顧客への技術提案、基礎ラボ評価、実装検証などを担当。現在、開発センター 高純度技術グループ所属

  • 石原 道之の顔写真

    石原 道之

    電子材料精製用イオン交換樹脂プロジェクトの当初から営業担当として参画。日本市場、グローバル市場における事業を統括。現在、機能商品事業部 分離精製部 部長

  • 仁平 敏明の顔写真

    仁平 敏明

    営業担当として本プロジェクトに参画。日本・台湾・中国・韓国の顧客への営業提案、営業体制の構築・推進を担当。現在、機能商品事業部 分離精製部所属

フォーカス 1​

クリーン化の壁を超えるために
最後の砦となって支える。

超純水のクリーン化技術を応用した、技術的背景とは。

2000年代初頭、オルガノは超純水で磨いた技術の転換点を迎えていた。開発部門では、超純水以外の溶剤系におけるニーズと、不純物を除去するイオン交換樹脂のシナジーを探求する日々が続いていた。開発の主要メンバーとして参画していた伊藤が当時を振り返る。

「私たち開発部門では、有機溶媒を精製する技術に挑戦していました。これは事業部門と一丸となった取り組みで、半導体メーカーや電子材料メーカーが直面していた“クリーン化の壁”という課題に応えられる可能性を秘めていました。超純水で培ったクリーン化技術を応用展開できれば、多くのお客さまの困りごとを解決できる!シナジーの糸口が見つかったことで全社的プロジェクトとなり、技術、営業、経営層が一体となって一気に加速しました」と伊藤。電子材料精製用イオン交換樹脂プロジェクトの本格的なスタートだった。

しかし当時、溶剤系の電子材料に関する知見はまだなかった。そこで、伊藤たち技術者は事業部門の営業メンバーと一緒に顧客訪問を繰り返した。「多くのお客さまのお話を聞くにつれて理解が深まり、課題が見えてきました。除去したい物質は何か?下げたいレベルはどこか?イオン交換樹脂に求めるものは何か?日を追って仮説の確度が高まり、技術が製品になっていきました」と伊藤は言う。

あと一歩の純度が求められる、市場的背景とは。

半導体の製造工程では多種多様な電子材料が使われているが、半導体メーカーや電子材料メーカーの頭を悩ませているのが微量の不純物だった。営業として当時の状況を知る石原が説明する。

「半導体製造に必要な超純水がほぼ理論値の純度を達成していた一方で、電子材料の純度は低くウェハーの汚染原因となっていました。水も電子材料もきれいでなければ、半導体を作ることはできません。半導体メーカーさまから承った困りごとを電子材料メーカーさまに伝え、相談を重ねながら解決方法を練り上げていきました」

電子材料メーカーとしても、純度が足りないがゆえの歩留まりの悪さが深刻なボトルネックとなっていた。石原が続ける。
「製造した電子材料を半導体メーカーさまにお届けする際に、不純物の残留が原因で製品として成り立たないことに苦慮しているお客さまが多くいらっしゃいました。たとえば、沸点の違いを利用して不純物を除去する蒸留設備では、設備由来の金属不純物の残留や、沸点の近い不純物の除去に不安があります。あと一歩きれいに、ラスト1マイルを確かなものに。メーカーさまとサプライヤーさまのギャップを埋めることが、私たちのイオン交換樹脂の急務だと痛感しました」

2000年当時、世界の半導体トップメーカーには日本の総合電機メーカーの半導体製造部門が名を連ね、さらなる高度化へと突き進んでいた。電子材料精製用イオン交換樹脂は、まさに時代が要請した期待の先進技術だった。

さらなる需要の押し上げと技術の追究。

電子材料精製用イオン交換樹脂の需要はこの10年で1が10の規模になった。そして、さらにこれからの10年で10が100の事業規模に成長すると見込まれている。その要因は高純度化の対象と要求値の増加にあると、技術営業の仁平が解き明かす。

「3nm、2nm世代へとロジック半導体の微細化が進み、不純物の除去レベルと除去対象が拡大しています。その結果、従来の技術では対応が難しい領域に課題がシフトし、新規のイオン交換樹脂の採用が活発化しています。一方で、AIやデータセンター等用途の拡大、スマートフォン・自動車の多機能化などによって、半導体製品そのものの需要も増加しています。それに伴い、既存のイオン交換樹脂の需要も拡大しているのです」

その言葉を受け、石原は「半導体はますます高速化し、電子材料をクリーン化するレベルも範囲も広がっていきます。先端技術だったものが5年後には一般的な技術になり、さらに新たな技術が出てきます。半導体産業を支える上で、我々は常に最先端技術をキャッチアップしていく必要があるのです」と強調する。

*nm(ナノメートル)。1nmは10億分の1メートル。半導体の超高性能化が進むほど数字が小さくなる。

フォーカス2

一品一様の難題を​
打ち破る開発者魂。

定型なき最適解をいかにして導き出すか。

電子材料の不純物を取り除く上で最大のハードルは、一品一様の難しさだ。つまり、精製対象や原料がお客さまによって異なるために、対象ごとに精製プロセスを設計する必要がある。さらにそこへ、情報非開示という事情が重なった。

開発担当の中村はこう説明する。「お客さまにとって技術の核心部分ですので、技術パートナーである我々であっても、精製対象の情報が開示されないケースが多々あります。溶剤が何であるかを秘匿したまま、金属不純物を除去してほしいと。しかし、不純物を取り除けても、秘匿された溶剤にダメージを与えてしまっては意味がありません。そこで、お客さまとディスカッションを重ねながら仮説を立て、イオン交換樹脂の候補や組み合わせ、処理方法を絞り込んでいきます。ここが非常にチャレンジングなところでした」

開発に求められるのは、精製対象とイオン交換樹脂に対する深い理解と、混合によって何が起こるかという推察力だ。これまでに培った知見も活用する。「難題をクリアした時の喜びに勝ることはありません」と中村の表情に笑みがこぼれる。

トライ&エラーを繰り返し、確度を高めていく。

顧客ごとにイオン交換樹脂を最適化する上では、いくつもの手順を踏むこととなる。最初に精製対象や除去対象、精製レベルなどを調査し、次に候補となるイオン交換樹脂・組み合わせを決める。そこからラボ評価、スケールアップ評価を経て、実装となる。そのポイントを、引き続き中村が説明する。

「お客さまとのディスカッションから導いた情報やご要望を元に技術的な仮説を立て、数10mLの少量スケールで試験します。スクリーニングをかけて効果が見込まれそうなものを数100mL、数L、数10Lとスケールアップしていくのです。試験においては上手くいかないこともありますが、その結果も大事な知見になりますので、すべての仮説と検証は無駄にはなりません」

トライ&エラーを繰り返し、確度を高めていくために、顧客からのフィードバックも重要だ。仁平は「我々は仮説に則ってイオン交換樹脂を提供し、お客さまの評価を仰ぎますが、そのやりとりを非常に重視しています。提供して、どのような評価だったかをきちんと確認して、新たな課題が見つかったら持ち帰って開発に伝え、採用に至る確度を高めていくのです」と語る。

半導体製造に関わるメーカー、サプライヤーは技術の最前線で、世界初のことに挑んでいる。オルガノのメンバーが取り組んでいるのは、そうした顧客を下支えする最前線のサポートなのだ。

分野を超えて、貢献の場はどこまでも広がる。

電子材料を極限までクリーン化し、電子産業分野において重要な役割を果たすオルガノのイオン交換樹脂。貢献の場はそこに留まらない。さまざまな顧客と接する機会の多い石原は、さらなる他分野への広がりを察知している。

「クロマト分離といって、物質ごとの吸着力や移動スピードの違いを利用して混ざり合った複数の成分を分ける技術がありますが、イオン交換樹脂の得意領域です。医療・製薬分野、バイオ分野などからの要請をはじめ、純度が重要なファクターとなる電子材料のリサイクル事業での需要も高まっています」と、石原が一例を挙げる。

石原の言葉を裏付けるように、伊藤が説明を加える。「原理は変わらないで、変わっていくのは時代のニーズです。イオン交換樹脂は、遥か以前からさまざまな産業で利用されてきました。食品分野で言えば上白糖から始まり、機能性食品や健康食品へと広がりました。エネルギー分野では火力発電や原子力発電、水素、燃料電池などにつながっています。時代の変化に応じて出てくる新しいニーズに応えるイオン交換樹脂の変遷は、実にエキサイティングです」。イオン交換樹脂はこれからも、変わり続ける時代を柔軟に支えていく。

フォーカス 3

受け継いでいく
オルガノ・スピリット。

他にはないオルガノの強みが信頼につながる。

電子材料の不純物を除去する技術は他にもある中で、オルガノが提供するイオン交換樹脂の強みはどこにあるのだろうか。仁平が強調するのは“総合力”だ。

「一品一様の要請に対して、他社が真似できないほどの高い次元で精製のお手伝いをする。そのために不可欠なのは、お客さまの思いや狙いを引き出すコミュニケーション力です。常に営業と開発が一体となってお客さまの課題解決を目指す点が、当社の最大の価値だと自負しています。自分で仮説を立ててお客さまの反応を引き出すためにも、営業を超えた技術営業の素養が必要だと考えています」

仁平の思いは中村も同様だ。「イオン交換樹脂の品質の高さ、ラインアップの豊富さは核となる強みですが、モノの良さだけでお客さまを動かすことはできません。『オルガノに相談して良かった』という信頼関係を築くためには、開発と営業の連携が欠かせません。仁平が技術的知見を体得しているように、私も営業的対応力を身につけていき、お互いに高め合っているようなところがあります」と、中村は技術者としての胸の内を明かす。

また、顧客から得た情報は、個人に留めずチーム内で共有することが重要だという。仁平が紹介する。
「こだわっているのは、お客さまから得られた情報を蓄積し、部内・開発メンバーと共有する仕組みづくりです。組織として活用することで、より迅速かつ精度の高い提案につながりますし、新たな樹脂の開発促進にも寄与します」。情報共有を積み重ねることで、着実にオルガノの強みになっている。

技術とノウハウと“面白がる”マインドの継承。

極限まで磨き上げた製品で、顧客の課題を解決するオルガノの対話力・技術力・提案力・共創力はどのように育まれ、受け継がれていくのだろうか。最後に、4人のメンバーの仕事に対する視点を聞いた。

石原

石原

「20年前の当時から、新しいことへのチャレンジにやりがいと面白さを感じていました。教育システムや研修は必要なことですが、まず自分が取り組んでいることを面白がるマインドを持つことが大切だと思います。仁平を見ていると、彼も存分に面白がりながらチャレンジしている姿勢が感じ取れます。最も大切なそのことを若手メンバーにも響かせてほしいですね」

仁平

仁平

「“水のオルガノ”で、水ではないプロジェクトに取り組んでいることの高揚感!そして、この面白い取り組みが時代を牽引する半導体分野で貢献していること、ビジネスにつながっていることにやりがいを感じています。この醍醐味を若手メンバーにも伝えていきたいです」

伊藤

伊藤

「お客様からダイレクトに課題を伺いながら開発するのは、オルガノでも稀有な業務です。だからこそ、解決できた時の達成感は言葉にできないほどです。その経験を通して技術を体得していってほしいですし、行き詰まることがあってもチャレンジをやめないでほしい。そこからのもう一歩チャレンジによって、開発マインドが育っていくのですから」

中村

中村

「お客さまの最先端の技術に触れられることに、開発としての喜びとやりがいを感じます。実験では上手くいかないこともありますが、実験結果を一番早く知ることができるのが技術者の醍醐味だと思います。水系、非水系、分野を問わず、そうしたプロセスを面白いと思い、次へ活かしていける後輩技術者を育てていきたいです」

生成AIの本格化をはじめ、今後、半導体需要の多品種・超高度化が予測される電子産業分野。オルガノのイオン交換樹脂は、極限のクリーン化技術を一層研ぎ澄まし、さらなる期待に応えていく。

プロジェクト概要

■技術名

電子材料精製用イオン交換樹脂

■期間

2000年〜現在も進化継続中

■導入先

半導体メーカー、電子材料サプライヤー 多数